184 / 226

第184話

水無瀬と水樹は運命で結ばれた魂の番ではない。 それは水樹が一番よくわかっているし、水無瀬もわかっている。だからこそ、水無瀬の発言が理解できなかった。 悪い意味ではないと、思うのだけど。 「僕の運命の番は君だから、なんて言うのに、どうしてそんなに不安そうな顔するの?」 どこかで不安を拭いきれないのは、水樹の方だった。水無瀬の言葉足らずには今まで散々悩まされてきたからだ。 今だってそう。 運命の番なんて、一見嬉しいことを言ってくれるくせに苦しそうな顔をする。その理由は話してくれない。 不安げに見上げてくる水樹に、水無瀬はふっと破顔した。 「そのままの意味だよ。」 ちょっとくしゃりとした、笑うところじゃないけど笑ってしまう、みたいな。 水無瀬が時々見せる、この屈託のない笑い方が大好きだ。学校に行っている時とか、龍樹がいるときにも見せてくれない表情。それは自分だけのもののようで。 水樹はそれを直視できず、さっと視線をそらした。それにもまた、水無瀬が小さく笑う。 「龍樹を見てて思ったんだよね。」 グイッと手を引かれて、水無瀬は水樹を抱え込んでソファに沈んだ。 背中に水無瀬の低い体温と、首筋に柔らかな金髪の感触。そして微かに漂う石鹸の香りと大好きなフェロモン。目眩がしそうな程の幸福感だ。 思わず目を閉じてそれに浸ると、耳のあたりにふわりと感じるのは水無瀬の甘い唇だ。 「龍樹、あんなにセックス嫌いだったのにあの先生のフェロモンには欲情したんでしょ?」 「んっ…」 「水樹の運命の相手は叔父さん。龍樹の運命の相手はあの先生。だけどそれは、本能が求めたものだよね。Ωの本能、まぁ、αもだけど…所謂獣の本能。より良い遺伝子を残すための生殖能力。運命の番って要は究極に身体の相性が良いことなのかなって最近思ったんだけど。」 「ちょ、っ、真面目な話して…んっ…」 「大丈夫、大真面目だから。」 「じゃあこの手はなんっ…ッ…」 「気にしない気にしない。」 「バッ…あ、っ…」 バカじゃないの、という言葉は濡れた喘ぎに変わり、これ以上口を開いてもらしくない高い声を上げるだけだと悟った水樹はギュッと口を噤んだ。 大人しくなった水樹に気を良くしたのか不埒な手はきっちり締められたネクタイを緩めてシャツのボタンを外していき、水樹の無駄の無い身体を流れるように撫でて器用にベルトも外してしまう。 そうなると下着の中に侵入してくるのも直ぐ後のこと。 突っ撥ねた言葉とは裏腹に期待に頭をもたげる屹立の先端を優しく擦る手に、はしたなく腰を揺らめかせてしまうのだった。 「っ…んッ!あ、…」 「僕別に水樹に身体の相性求めてないなーって。求めてないし、相性普通に良いと思うし、それより…」 「や、ちょっ…もう、…んんッ!」 もうイきたい、と告げようとしたそのとき。屹立を撫でていた手は不意に後ろに回り、水樹が零した先走りを潤滑油に、しっとりと僅かに濡れた後孔に触れた。 既に快楽を覚えてしまったそこは、キュッと窄まって期待を告げたのだった。

ともだちにシェアしよう!