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第187話

番になった途端仲睦まじいことで、心底羨ましい。俺なんて未だに水無瀬とゴタゴタするっていうのに。 心の中で文句を言いながら龍樹の部屋を見渡すと、相変わらず乱雑に本が積み上がっていて、更には中途半端に進んだ帰省準備のせいで足の踏み場もない。 「ねぇ、俺の下着は?お母さんこの前の帰省の時間違えて龍樹のとこ入れてそのままじゃないの?」 「え?別にいいだろどっちがどっちでも…じゃ先生、土曜に。」 電話の向こうから情けない抗議の声が僅かに聞こえてきたが、龍樹はそれを無視して通話を切ってスマホを投げ捨てた。可哀想に、と少しだけ落合を気の毒に思いながらそれを見ていると、龍樹はぐるりと部屋を見渡して、深い溜息をついた。 言っておくが部屋が汚いのは自分のせいである。 「なんで急に下着に拘るんだよ、いつも適当の癖に。」 「…別に。土曜日先生来るの?」 「ああ…親に会ってもらおうと思って。さっき家には電話した。」 「家に?ふぅん…」 水樹は思わず龍樹を凝視した。 龍樹から家に連絡を入れたことなんて、中学に入ってからの数年間で数える程もないに違いない。たとえあったとしても、予定していた帰省をやめたときとか、家族にとって嬉しい報告ではなかったはずだ。 不躾な視線が居心地悪くなったのか、龍樹は視線を逸らして帰省の準備を再開した。 何も言うまい。 ここで変に揶揄ってせっかく家族と歩み寄る気になった龍樹の臍を曲げるわけにはいかなかった。 水樹は嬉しくなって口の端が自然と持ち上がった。 「番に、なったし…将来一緒になるだろうし。けど進路もあるしな。」 「まぁ、ねー…進路ねー…」 「そういやお前進路考えてんのか?そう言う話聞いたことねぇけど。」 「考えてるよ、一応…」 龍樹になんて、絶対絶対言えない進路を。 と、心の中でだけこぼすと、龍樹の口から信じ難い言葉が飛び出した。 「水無瀬大学行かないって言ってるしな…すぐ結婚するのか?」 「…え?なにそれ。」 「え?」 龍樹が心底不思議そうな顔で振り返る。心底不思議なのは水樹の方だった。 水無瀬が大学に行かない?すぐ結婚する?誰と?俺と? そんな話はこれっぽっちも聞いていない。 「水無瀬、大学は行かないって3年になってから言い出したから…お前と結婚して生活して行くために働きたいんだと思ってたんだけど。」 違うのか?と首を傾げた龍樹に、水樹はゆるゆると首を振った。 そんな話は、知らない。 そしてなぜか直感した。 水無瀬が大学に行かないと言い出したのは結婚とかそんな話ではない、と。だってそれならそうと言ってくれるはずだ。 3年になってから言い出したと言うことは、水無瀬の父が自ら命を絶ったことが関係しているのかもしれない、と。 窶れて目の下にクマを作っていた水無瀬を思い出して、水樹は血の気が引いた。 「…俺、ちょっと水無瀬のとこ行ってくる。」

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