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第198話
既に履歴は水無瀬の名前で埋め尽くされている。
水樹は早々に焼きそばの行列を抜け、スマホを握りしめて何度も電話をかけ直しながらキョロキョロと辺りを見回した。
どこにも、あの輝く金色の髪は見当たらない。
道行く人に尋ねてみたりもした。
水無瀬ほどの容姿をしていれば、嫌でも目につく。そう思って手当たり次第に水無瀬の特徴を伝えてみるも、有力な情報はひとつも得られなかった。
「どうしよ…どこ行ったんだよ水無瀬…」
片時も離れるべきじゃなかった。
辛い時だとわかっていたのに、どうして側にいてやらなかったのか。
水樹は自分の愚かさに絶望さえ抱きながら、がむしゃらに賑やかな人通りの中を縫うように歩き続けた。
どうか、ただ逸れただけであってほしい。考えたくはないが意図的に自らふらりと立ち去ってしまったとしたら、2度と会えないような気さえする。
あの嘘のような美貌の人は、どこか消え入りそうな儚さを持っているから。
最悪の想像を振り払うべくもう一度視線をあげると、最近見慣れた小さな人影がベンチに腰掛けていた。
「先生!落合先生!」
水樹の呼びかけにすぐさま反応した落合は立ち上がって、恐らく水樹に声をかけようとして口を開きかけたが、立ち上がった瞬間に顔を不自然に歪めて再びベンチに座り込んだ。
右足の力の入れ方が変だ。
浴衣で隠れた足は遠目にはわからないが、どこか怪我でもしたのだろうか。
「先生、足痛いの?大丈夫?」
「うん、転んじゃって…それより、どうかしたの?」
「あ、えっと…水無瀬、水無瀬見なかった?逸れちゃって…」
どうして、落合には合流できて水無瀬には合流できないのか。
どうしようもない理不尽な怒りさえ感じて、辺りを見回すことで誤魔化す。人々が笑顔で行き交う中、やはり求める姿は見当たらない。
居ても立っても居られなくて再び雑踏の中に飛び込もうとした先に現れたのは、龍樹だった。
「水樹?どうした、水無瀬は?」
「龍樹!水無瀬から何か連絡来てない?あいつ携帯出なくて…」
「いや、来てないけど…逸れたのか?あいつならそこらへんで聞き込みしたらすぐ捕まるだろ。」
「捕まんないから焦ってんだよこのバカ!」
「ばっ…み、水樹くん強いね…」
何かに衝撃を受けている落合に微塵も気付かずに、水樹はスマホを覗き込むが、変化はない。メールに既読はつかないし、電話をかけても繋がらないままだ。
冷静に考えれば水樹に連絡がないのに龍樹に連絡を入れているわけもないのだが、そんなことも今は頭が回らない。
ただ漠然とした不安がもわもわと肥大して、息苦しささえ感じ始めた時。
「ねー今の人ヤバくなかった?すっごい綺麗だった…なんだろ、白馬の王子様?いや寧ろ天使?みたいな」
「うん、αかなぁ?αっぽかったよね…!」
「でもさー、一人だけ浴衣って変じゃない?絶対連れじゃないよねー」
華やかな浴衣に綺麗にセットアップされた髪を揺らした3人の女性が興奮気味に話すその内容。
水樹は直ぐに気付いた。水無瀬以外にありえないと。
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