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「誠司って本当に甥っ子好きだよねぇ…」
しみじみとそう呟いた恋人は、憎たらしくも半笑いだった。
孝仁とは大学の新入生歓迎会で出会い、酔った勢いで童貞を捧げそのままズルズルと付き合っている。
サラリとした黒髪に泣き黒子が特徴的な、同じ年の男とは思えないちょっと妖艶な雰囲気を持った男だ。
「うるせーな…一緒に住んでて生まれた時から知ってんだから可愛いに決まってんだろ。」
「にしてもさぁ…双子なんでしょ?片方の話題ばっかり聞かされる気がするんだけど。」
「龍樹はあんま懐いてこないんだよ。」
「誠司がミズキばっかり構うからじゃないの?」
そして時々こうして鋭いことを言ってくる、ちょっと厄介な男だった。
「…うるせーっつの。」
「あ、図星だ。」
ケラケラ笑う孝仁をジト目で睨みつけて、誠司は最後に残ったカツを口の中に放り込んだ。
少し厄介な性格をしているが、孝仁は当たり障りのないところできちんと線を引いてくる。そういうところが気に入っていて、それが愛情かどうかはともかく隣が居心地いいと思える存在ではあった。
「その甥っ子、Ωだったりして。」
「ねーよ。うちみんなαだぞ。」
「わかんないよー?うちの両親βだもん。」
そう言いながらクイクイとチェーンの飾りがついた小洒落た黒い首輪を引っ張る孝仁の目は、どこか挑戦的な、それでいてどこかに憂いを帯びた目だった。
「…ねーよ。」
Ωの孝仁は高校生の時に先輩から性的なイジメを受けていたというのは、風の噂で聞いた話で、本人に確認はとっていない。ただセックスに関して言えば孝仁はとても手慣れているのは確かだった。
αの誠司はただひたすらにチヤホヤされてきて、その影でΩの同級生たちがどんな扱いを受けていたのか、誠司は覚えていなかった。
「…ま、冗談だけどね。Ωでいいことなんかなーんもないよ。発情期のセックスがバカんなるくらい気持ちいいくらいかな。甥っ子たちもαだといいね。」
誠司は無言で頷くと、空になった丼に視線を落とした。
付き合って1年以上になるが、一度だけ孝仁の発情期に付き合ったことがある。噛まないで、でも抱いてと潤んだ瞳で懇願する孝仁からは強烈な色香が漂い、部屋中の空気にフェロモンが浸透してむせ返りそうだった。
5分も部屋にいたら、もう脳はそのフェロモンに侵された。
シャワーも浴びずに孝仁に飛びかかってその唇を奪った。愛撫もそこそこに濡れそぼったそこを貫いた。
高い歓喜の声を上げた孝仁が本当に良くなっていたのか、今では疑問なほどに荒いセックスだった。
うなじを守る首輪を無理矢理こじ開けて噛みつきたい衝動に駆られながら、グッと歯を食いしばって耐え、代わりと言わんばかりに荒々しく突き上げた。
誠司にとっては、苦い思い出だ。
「そんな考え込まないでよ。俺飲み物買ってくる。誠司は?」
「…茶。」
「うわっ!亭主関白な一面を見た気がした!」
孝仁はサラリと黒髪を揺らし、学食の喧騒に消えた。
ふわりと香るのはシトラスの香水。孝仁がいつもつけている、甘酸っぱいスッキリした香りだ。普段漏れ出るフェロモンを誤魔化すためにつけているのだと言っていたそれは効果抜群で、平時孝仁からΩのフェロモンを感じたことはない。
いつかアイツと番になるんだろうか。
誠司はぼんやりとそんな将来像を浮かべていた。
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