2 / 26
Ⅰ:1
どのくらい気を飛ばして居たのか、目を開いたそこに相手の姿は既に無かった。
寝かされていた保健室のベッドの上。
保健医の姿がまだ無いことから、それ程時間は経過していない様だ。
整えられた自分の衣服とベッド、小ざっぱりとしたカラダ。一瞬何事もなかったかのように見えるが、シャツを捲れば手首には縛られた痣。その上とんでもない所の痛みが、先ほど起きた事が夢ではないとありがた迷惑にも教えてくれた。
「クソッ、まじアイツ…なんなのッ?!」
痛む体に鞭を打って起き上がれば、枕元には札の入った封筒。十万が入っているであろうそれは、俺のこの身を好き勝手した相手が置いていった物だ。
俺は怒りで眉間に皺を寄せ、腰を摩りながら相手のことを思い出した。
昼休みの途中。手を組んでいる保健医の千鳥 から、いつも通りの手筈にて一件の予約が入ったと連絡を受けた。
千鳥とは、彼に売上の三割を渡すことで保健室の提供を受ける契約を交わしている。保健医は保健医でも、千鳥は外道な保険医なのだ。
しかも、獣の交尾姿を見てしか性的興奮を得ることの出来ない恐ろしい男でもある。
全ての予定は千鳥が管理しており、指定された時間に保健室へ向かい、そこへ現れた相手と寝るのが俺の役目だ。今日もまた言われた通り指定の時間に保健室へと足を運び、誰も居ない部屋へ滑り込んだ。
本来なら教室で授業を受けているはずの時間帯、そんな部屋の中は不気味なほどに静かだった。
窓の外を見ながら少しだけぼうっとしていると、背後でドアの開く音が響く。振り向けばそこに立つ、一人の男。
その男の姿に、俺は首を傾げた。
ともだちにシェアしよう!