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Ⅱ:終
「お前、ホントなんなの? 俺に何の恨みがあるワケ?」
「…恨みなんて無いよ」
「じゃあ何だよこれ。オラ、手首見てみろよ。お前のせいで痣消えねぇんだけど」
毎日毎日、組み敷くたびに縛り上げてくる手首にはくっきりと紫色の跡が残っていて消えない。変な性癖でもあるのかと連れに誤解されるのが怖くて、暑くなっても腕まくりすら出来ないのだ。
「もうさ、頼むから勘弁してよ。お前のせいで他の客取れねんだよ」
秋月は、一回につき一時間半以内という俺専用のプレイ時間だけはしっかり守ってくる。だが、それは俺がタチで有る場合の話だし、何よりネコ側の体力の消耗は半端じゃない。
他の奴らがどうなのかは分からないが、秋月のヤリ方は俺にとってカナリ激しい方で、例え一回で終えようともその後に他の奴とヤル気にはなれなかった。終えた直後など、立つことだけでもやっとな位だったから。
「取らないでよ」
「あ?」
「もう、俺だけにしてよ…他の奴、客に取らないで」
「………」
正直、秋月神奈は非常に良いカモだった。どんだけ金持ちなのか知らないが、秋月は毎回十万を用意してくる。
どれだけ否定しようとそれを受け取ってしまっている時点で、俺と奴の間で需要と供給の関係が成り立ってしまっている訳だ。もう何度も後ろを奪われている為、いい加減秋月から尻を守る気も失せてきているし、慣れてしまえば気持ち良いのもまた事実。
だが、問題は秋月が俺に飽きた後のことだ。
せっかくコツコツと増やしてきた客も、放置すればさっさと離れて行ってしまう。放って置いても向こうから寄ってくるような美形のタチとは違い、俺が客を取り戻すのに苦労を要するのは目に見えていた。
それに秋月が俺に固執する理由もよく分からない。ハッキリと見えはしないが、多分秋月は美形野郎だ。もしも隠れている瞳が糸目であったとしても、そのくらい許容出来てしまう程にその他は整っているから。
だから探そうと思えば金なんか払わなくたって、相手になる奴くらい幾らでも居るだろう。
「お前なら俺に構わなくてもさぁ」
「俺は南が良いんだよ。南じゃなきゃ、意味が無いんだ」
隠れいていて見えないはずなのに、俺を視線で突き刺している気がした。
「今は良くても、お前が飽きた時に俺が困るんだよ。客取り戻すのがどんだけ」
「飽きないから」
「は?」
「絶対に飽きたりしない。それに、南の身体が辛いなら今みたいに毎日じゃなくても良い。だからお願い、他に客を取らないで。その分金は払うから」
「………」
こいつ、馬鹿なのかな。今払ってる十万の時点で、既に一週間分の売上を越しているって言うのに。けどなんか、ここまでお願いされると悪い気はしない。
『他に客を取らないで』とか、こいつもしかして俺のこと? なんて浮ついたことまで想像してしまう。
「まぁ…ちゃんと金払うって言うなら、別に」
こいつが飽きるまでの間に奪えるだけ奪ってやればいいか。額が額だから、多少客が離れてしまった後も秋月貯金で何とかなるだろ。
結局俺は、そんな軽い考えで暫くの間は秋月だけを客にすることに、了承してしまったのだった。
第二章:END
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