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Ⅳ:2
「そろそろ風紀が一斉検挙に踏み出すらしいぞ」
千鳥は俺にコーヒーを差し出すと、そのまま珍しく机に向かった。
「千鳥、俺の客に予約取ってよ」
背中に向けてかけた声に、これまた珍しく驚いた顔で振り向いた。
「お前、俺の話聞いてたか?」
「聞いてた」
「じゃあ何でそんな話になんだよ馬鹿。あぶねーだろ。何処に罠があるか分かりゃしねぇぞ?」
「もう掛かったっつーの」
「は?」
「だからっ、もう罠に掛かってんだっつーの!」
叫びながらベッドにダイブすれば、千鳥が「おい…」と声をかけてくる。
「まさか、秋月か?」
「頭の回転早いと助かるわぁ~」
説明省けて楽だと笑えば、千鳥が渋い顔をする。
「でもアイツ、調べる限り風紀との繋がりなんて無かったぞ」
千鳥の情報網は凄い。俺から見りゃ結構チートな存在だ。保険医のくせに。
だからこそ、その千鳥の情報網を掻い潜っての秋月の存在には正直脱帽する。それを見つけた俺は、よっぽど運が良かったんだろう。ある意味運命か。
俺が降参したように笑えば千鳥が大きな溜息を吐いて、浮かせていた腰を再び落ち着かせる。
「じゃあ、秋月とは切れたのか」
「いや、まだ。知ったの昨日だから」
「どうするつもりだ」
「どうするも何も、別にどーもしない。もう俺は証拠を十分握られてんだ、何したって無駄だろ?」
ただそのまま秋月の罠で捕まるのは癪だし悔しい。だったら、元に戻るだけだ。どうせ捕まるなら他の奴が相手が良い。そう吐き捨てると、千鳥からボールペンを投げ付けられた。
「ウリを辞めるって選択肢はねぇのかよ。無駄かどうかなんて分かんねぇだろ?」
「そんな気無い、ねっ!」
投げられたボールペンを投げ返し、千鳥を睨む。
「いーから、常連に連絡してくれよ。捕まったっていーんだよ。それに、俺はアンタの事は話さねぇよ」
引かない俺に、千鳥が諦めたのか携帯を手に取った。その手の先では豚のオモチャがカクカクと腰を振っている。
相変わらず、良い趣味してんな…。
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