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Ⅳ:終
◇
少しだけ緊張しながら、久しぶりに男を抱いた。華奢な身体に懐かしさを感じつつ、いつ風紀が突入してくるかと正直気が気じゃなかったが、そんな緊張は結局杞憂となった。
「南くん」
前まできちんと行っていたアフターケアも放置して、ぼうっと窓の外を見ていると、制服を整えた山田次郎が可愛い顔をしてこっちを見ていた。
名前は平凡すぎるが、小動物の様なその姿は愛らしく、この学園でも十分にモテる容姿をしている。そんな山田もまた、他の客の様に片想いをしていると前に聞いた事がある。
「あ、わりぃな。処理も手伝わねぇで」
「うっ、ううん。平気、ありがとう。呼んでもらえただけで嬉しいから」
照れたように笑う山田は矢張り可愛い。そう思うと何だか弟を見ている様な気分になって、こちらまで釣られてふっと笑ってしまった。
「お前さ、まだ片想いしてんの?」
「へ?」
「前に言ってたろ、好きな人が居るって」
「あ、あの…うん」
山田は顔をカァっと真っ赤に染めた。
「俺が言えた義理じゃ無いけどさ、好きな奴いんならもう、こう言うのは止めとけよ」
俺は山田の頭をごちゃっと撫でると、ベッドから腰をあげた。
「金はいらねぇから」
「えっ、え…南くっ」
「今日は来てくれて助かった、ありがとな。お前が最後で良かったよ」
閉めたドアの向こうから名前を呼ばれた気がしたけど、俺は振り返らずに歩く。
千鳥にはああ言ったけど、初めからこの一回でウリは辞めるつもりだった。金も受け取る気は無かった。ただ、この既成事実が欲しかっただけだ。
山田には、俺の身体に沢山跡を付けさせるように仕向けた。利用した形になった事は悪かったと思う。好きな奴が居るのに、他の奴に抱かれて嬉しい訳がない。
昔抱いた奴が、俺に抱かれた後に『虚しい』と泣いているのを見たことがある。
金を払って俺に抱かれる事は、あいつ等が自分で望んだことだ。強姦なんかしちゃいない。けど、その姿は少しだけ哀れに思えた。
「さてと、後は秋月だけだな」
このカラダの痕を見れば何をして来たか直ぐに勘付くだろう。
もうお前に飽きたとでも言えば、無理には喰い下がる事も無いだろうし、アイツこそ、好きでもない奴を抱きたくは無いに違いない。
散々無理して抱いたのに、あと少しの所で逃げられればアイツも悔しいかもしれないが、そこは安永が優しく慰めるだろう。
安永安永と思うたびに、妙に不快な気分になって息苦しい。さっさとこの不快感から逃げ出したい。
俺はまだ残っている授業も無視して、自分の寮部屋へと足早に向かった。
第四章:END
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