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Ⅵ:1
「目、覚めたか」
目の前に居たのは秋月では無く、滅多と部屋に帰って来ない同室者の井筒だった。相変わらず綺麗な空色の髪をしている。漫画みたいな色なのに、井筒には良く似合っていた。
「…ッ、……、」
口を開けば出て来るはずだった声は、掠れた音だけ残して何の言葉にもなる事なく終わる。
「はぁ、やっぱ喉もやられてんな。待ってろ、飲み物持って来るから」
俺の返事を待たずに部屋を出て行く井筒の背中を黙って見送る。
一体今がどんな状況なのかサッパリ分からない。最後に見た景色の中には、確かに秋月が居たはずなのに…今のこの部屋の中にはその姿は何処にも見当たらない。
闇に飲まれる瞬間に見た、秋月の顔。
思い出そうとしても、どうにも霞みがかって思い出せない。何かを言われた気もする。けどそれも不確かなものだった。
ギッ、と再び開いた扉から入った来たのは、井筒だけではなかった。
「よお、」
「っ…ど…ぃ」
「ひでぇ声だな」
カラカラと笑って側に座り、ストローを刺したペットボトルを差し出す千鳥。
「起き上がれるか?」
声は出ないのでコクリと頷き、身体をベッドから持ち上げる。が、
「うぐっ、」
全身に走る鋭い痛みと鈍い痛みに、再びベッドへと吸い込まれそうになれば、慌てた井筒と千鳥が腕を回す。
二人の力を借りて何とか起き上がる事は出来たが、これでは暫く普通に過ごすのは難しそうだった。
「お前を見付けたのは井筒だよ、南」
え、と驚いた顔を井筒に向ける。
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