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Ⅵ:2
「ったく、本気でビビっただろこの馬鹿。関わる相手はちゃんと選べよ。こんな、ひでぇ…」
ベシっと乾いた音を立てた俺の頭を軽く叩いた井筒が、深い深い溜息を吐いた。
偶然、本当に偶然、久しぶりに寮へと井筒が戻って来たのは、誰もが学校へと向かい終わったであろう時間帯。誰も居ないはずの部屋へ入りまず最初に目に留まったのは、部屋の床に散乱する万札。それと共に不気味に響く、ギシギシと何かが軋む音が耳に入った。
「南…?」
自分の部屋とは反対側にある、中途半端に開いたドアに恐る恐る近づき、そっとその隙間を広める。
「なっ、……に、やってんだオメェ!!」
それは異様な光景だった。
共有スペース同様に踏み荒らされた床の上と、明らかに気を飛ばして意識の無い南。その目元は遠目から見ても明らかに泣き腫らしたそれで、意識が無いのに苦痛に歪んでいた。
だが、異様だったのはそんな南ではなく、そんな南の上で一心不乱に動き続ける男の姿だった。
「オイッ馬鹿! 止めろっ!!」
井筒は二人の関係も、状況も分からぬまま思わず男の身体を引き剥がしに掛かる。男の身体は簡単に南から外れたが、そのまま床に座り込み動かなくなった。
「何なんだよ、これ」
南の無残な身体と、虚ろな目をして座り込む男。
この理解不能な状況は一人では何ともならないと判断した井筒は、すぐ様一人の男に連絡を取る。そうして呼ばれて来た男が千鳥だった。
この状況が前日の夜から続けられていたと二人が知るのは、もう少し事が落ち着いてからになる。
その時の井筒に対して、良い判断してるよ、と笑う千鳥。しかし、その後俺を見た千鳥は顔を苦いものに変える。
「秋月と、何があった?」
「…っ…れ、は…ゴホっ、」
「取り敢えずもう少し寝かそうぜ、こんなじゃ話なんて聞けねぇよ」
井筒の提案に千鳥が頷き、俺をベッドへ横たわらせる。
「暫くゆっくり寝ろ。俺もこの部屋に泊まるから、何があったらこれ鳴らして呼べ」
枕元にブザーを置いて、ゆっくり俺の髪を撫でると千鳥は井筒と共に部屋から出て行った。
今は何日で、何時なのだろう。あれから、どれくらい時間が経ったのだろう。何もかも分からない。
そう、秋月が今、何処で何をしているのかも。
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