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 身体は未だ動かし辛くはあったけど、何と無く寮に戻る気にもなれなかった。今一人になれば、きっと考えなくても良いことまで考えてしまう。  究極の選択と言うのか…仕方なく教室へと向かう事にした。 「南くん!」  余り人から呼ばれることの無い自分には珍しく、後ろから声をかけられた。 「……山田?」  振り向いた先にいたのは荒く息を吐く山田次郎だった。 「大丈夫だった!?」  顔を真っ青にして俺を見つめる山田に、一瞬秋月とのことを知っているのかと驚いた。けれど千鳥曰く、あの事はまだ事件として公にされておらず、俺の事情聴取が済み次第処理される為、処罰が決まるそれまでの間秋月が謹慎になっていることも誰も知らないはずだった。 「え、なにが?」 「風紀室に呼ばれたって聞いたからっ、」 「ああ、うん、呼ばれたけど」 「南くんも、謹慎になるの!? まさか退学なんてことッ」  南くん…も? え、退学? 「ちょっ、落ち着けよ。なに? 何の話してんの?」 「聞いてないの!? 一週間前に、風紀委員が一斉検挙に踏み切ってたんだ! 今までずっと隠してたみたいなんだけど、今日公に処罰が言い渡されて…検挙された人達、みんな謹慎になったって。中には退学になった人も居るって!」 「なに? 一週間前?」  山田の話の通り、教室の中は騒然としており、俺の知るウリをやっていた奴らの席は既に無人となっていた。  一週間前の月曜日、どうやら本当に風紀委員は売春する生徒達の一斉検挙に踏み切った様だった。捕まった殆んどの者が謹慎となる中、中には脅しをかけて無理矢理やっていた奴もいた様で、そんな輩は退学処分と重い罰を受ける事となっていた。  無理には…していない。けど、俺も十分金銭のやり取りをしてきた。  その上俺は先週の月曜日、間違いなく過度な金額を秋月から受け取り、奴にカラダを売り渡していた。  なのに何故、あの日の俺は捕まらなかったんだろう。 「結局ここに来たのか」 「何か教室、居心地わりぃもん」  風紀委員が起こした一斉検挙の報告は、生徒たちを落ち着き無くさせている。その空気に耐えるには、俺は余りに事件に関わり過ぎていていた。 「傷はどんな具合だ?」 「そんなに酷くねぇよ、殆んど打ち身だし」  無理に押し倒されたり、ベッドに投げられたり、はたまた、長時間激しく蹂躙されたり。そんな行為は俺の身体に幾つもの傷を付けていた。 「見せてみな。湿布も張り替えないとな」  そうして曝け出した上半身を見て、千鳥がフッと笑う。 「なんだよ」 「いや、すげぇ色のが混じってんなと思ってさ」  はぁ? と俺が首をかしげると、今度は馬鹿にしたように鼻を鳴らす。 「お前自分のカラダ、よく見たか? 普通、こんな色になるまでやらねぇよ」  千鳥がグッと指で押して来たのは、打ち身や擦り傷とはまた違う小さな痣。それは、花弁と言うには余りに毒々しい色をしていた。まるで、あの綺麗な赤色を打ち消すかのような、やり過ぎた色。 「吸い過ぎ。これ、痛かったろ」 「いや、あんまり覚えて無いけど…」 「それもそうか」  あの夜は、やり過ぎたキスマーク以上に色々とあり過ぎたのだ。けど、そこでふと気付く。所狭しと付けられた花弁の中に混じる、行き過ぎた色の痕。 「あれ…?」  赤色に混じってポツポツと咲く紫色の場所に何となく覚えがあったのだ。首筋にあるものには、特に。 「何回も重ねて吸ったかな? じゃなきゃこんな色にならねぇよな」 「重ねて…」  言われて痕を手で辿る。その酷く変色した花弁はどれも、秋月から見え易いようにと…。 「これ、全部山田に付けさせたとこだ…」 「山田が?」 「いや、でもこんな色してなかったし」 「…へぇ、なぁるほどね。じゃあ秋月がその上から付け直したって訳だ。とんでもねぇ独占欲だな」 「は…?」 「アホ。お前、これが独占欲以外の何に見えるんだよ。自分以外の奴が付けた痕を上書きしてやがんだぞ? って、おい。どうしたんだ」  急に立ち上がった俺に千鳥が驚いた顔をする。 「俺、寮に戻るわ」 「は? あ、おいっ!!」  シャツを羽織ると、俺は直ぐに駆け出した。  俺は、  秋月に会わなければならない。 第七章:END
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