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Ⅷ:1

 この学園は学年ごとに部屋割りをしている。俺と同じ学年である秋月の部屋は間違いなく同じフロアに有るはずだった。けど、何度フロア中の部屋のネームプレートを確認しても秋月の名前が見つからない。  今まで秋月に対して気にしていた事は、風紀との繋がりばかりだった。勿論保身の為だ。だからあの男がこの学園でどんな立場の生徒なのかなど、少しも考えたことが無かった。けど、自分と同じフロアに部屋が無いと言うことはもう、残る一つの可能性しか当てはまらない。 「まさか…アイツ特待生か?」  各学年専用フロアに、部屋の割り当てが無い者がいる。それは、別フロアにて用意された個室を与えられているからだ。けれどそれを与えられる者は限られていて、生徒会や風紀委員会と言った主要な委員会の中で役職に着いている者か、もしくは特待生だけのはずなのだ。  生徒会の役員の顔は一応全員覚えいているが、その中に秋月を見かけたことは無い。そして風紀委員会に至っては、先ほど秋月が所属していない事を聞かされたばかりだった。  この学園の特待生になることは非常に難しい。レベルはピンキリではあるものの、この学園には優秀な生徒がわんさかと集まってきているのだから、その中でトップクラスに入るのは当然容易では無い。  少々信じられない気持ちでありながら、俺は特別フロアに続くエレベーターへと乗り込んだ。 「まじかよ」  フロアに着いてすぐ、秋月のもので有ろう部屋に気付く。  自分の住んでいるフロアに比べ、明らかにドアとドアの間隔が広く、部屋数が少ない特別フロアの一室。その部屋の前に、見張りでもしているのか風紀と思わしき生徒の姿が見えた。  見張りが居る。つまり、見張りが必要な奴が居ると言う事なのだろう。  エレベーターから降りた俺がゆっくりとその部屋に近づくと、訳知り顔なその生徒はスッとドアの前から身体をずらした。 「南さんですね?」 「何、俺入って良いわけ?」 「その様に伺っております」  誰にだよ、とは聞かない。 「中には秋月以外におりませんので、僕も同行させて頂くことになりますが」 「別に構わねぇけど」  それを聞いた風紀の少年は、懐から専用のカードを取り出し部屋のドアを開けた。 「ひっろ…」  どう考えても、二人で使っている俺たちの部屋よりも広い。これが一人用の部屋だって言うのかよ…。 「まぁ、それが特待生の特権ですから」 「そりゃそうだけどさ」  なんのストレスも無いような部屋で、思う存分勉学に励めってことか。殆んど呆れにも近い溜息を零せば、くすっと笑った風紀の少年が一つの部屋を指差した。 「彼はあの部屋です。トイレとバスの使用以外、個室から出ることを禁止されていますので、南さんにもあの部屋に入ってもらう事になります」 「あ、あぁ」  本当に大丈夫ですか? と首を傾げてくる風紀の彼に、俺は居た堪れなくなる。きっと事件を詳しく知っているのだろう。 「大丈夫、ほんと平気」 「そうですか。では僕はここで待っています。ドアは全開で無くても良いですが、隙間程度は開いておいてください。何かあっても分からなくなってしまいますから」  そこまで言って少年は口を閉ざした。どうやら、もう会いに行っていいらしい。  何故俺が緊張しなくちゃいけないんだ…そう思いながらも、ドアノブに掛けた手は情けなくも細かく震えていた。

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