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終章:1

 秋月神奈が南壱也を初めて見かけたのは、入学式の時だった。 『新入生代表挨拶、秋月神奈』  ステージの上からは生徒達の様子が良く見えた。  この学園の校風は非常に自由奔放で、アニメから出て来たような髪色も珍しくは無かった。つまり茶髪や金髪なんてのは特に多く、その他大勢に埋もれ易い色だったのだ。  それなのに秋月の目がどの色よりも最初に捕らえたのは、南壱也の金色だった。  まだ始まったばかりの式の最中。誰もが新しい時間を刻み始めることに落ち着きを持てず挨拶など聞いていない中で、その金色だけがユラユラと優しく揺れていた。  簡単に言ってしまえば、南は居眠りしていた。コクリコクリと船を漕いでいたのだ。  柄になく堅い場での挨拶なんてものに緊張していた秋月の目に映った、緩やかな時間を刻む南という存在。そんな一瞬で好きだなんて感情が湧いたわけではなかった。けど、それから何処で見かけてもすぐ、その姿を目で追うようになっていた。  アレも一種の一目惚れだったのかもしれないと、今になって秋月は思う。  そうして1年が終わりに差し掛かった頃、秋月の耳に噂が舞い込んだ。 『南壱也がウリをしている』  珍しくない話だった。教師、生徒会、風紀の目をかいくぐり、校内で援助交際の様なものをしている生徒は割と多かった。  ただその時、その生徒の名が“南”である事に酷くショックを受けたのだ。その噂が、秋月が自身の気持ちに気付く切っ掛けとなった。そうして何も出来ぬまま時間だけが過ぎて行ったある日のことだった。 「智明に、一斉検挙の話を聞いた。このままじゃ南が捕まると思った。だから智明に頼んだんだ、南のことは俺に任せて欲しいって」 「で、金で釣ろうって思ったワケ」 「風紀の情報も、それを俺が知ってることもバレる訳にはいかなかった。でも南を捕まえられたくないし、どうにかしないとって考えて…結果アレしか思い付かなかった」  俺を抱き込んだ腕に、更に力が込められる。 「折角他の奴を引き離せたと思ってたのに…他の奴に触られてるなんて、嫉妬で狂いそうだった」  だから、あんなにキレたのかよ。俺のカラダに付けられた赤い痕を見て、あんなに取り乱したのかよ。 「好きだ。南しか、欲しくない。南のチカラになれるなら…俺は何だってする」  もう一度強く抱き込まれたかと思えば、直ぐに強い力で引き剥がされ後頭部を大きな掌で固定される。あ、と思った時にはすでに唇は奪われた後だった。 「んっ…んん、ふぁっ、ん…」  啄ばむなんて可愛いものじゃない。何度も何度も深く重ねた後で、ぺろりと下唇を舐め上げられる。そのぞわりとする様な感覚に唇が僅かに隙間を開けると、それを見逃す事なく舌を捻じ込んで来た。 「ンんっ! ふっ、ンッん、あふ」  自分の声と声の隙間から、ふっ、ん、と秋月の漏らす吐息が聴こえ背筋にぞわりと何かが走る。その堪らない感覚にどんどん意識が流され始めたその時、ドアの外でガサリと音がした。 「ッ!」  ドアの向こうに居る存在にハッとして、秋月の肩を押して無理に離させる。けど、乱れた前髪の隙間から見える秋月の瞳は完全に欲情したソレだった。 「待て! 待て待て待てって秋月!」 「はっ…みなみ…」 「ぁうっ、ひぁ! やめっ、」  唇は離されたものの、スイッチの入った秋月は俺のカラダを喰う気満々だ。手は厭らしい動きで腰を辿り敏感な部分を撫でて行き、首筋には顔を埋め込んで来る。 「ンあぁっ!」  ダメだ! 全然ダメ! コイツ完全に俺の弱いとこ知り尽くしてるから!感じ過ぎて抵抗できねー!! 「オイ! おい風紀っ! 助けてっ!!」  そうして外の風紀を呼ぶことで、何とも情けない場面を晒す羽目になる。  誤解を解きあった俺たちは、その後今回の事の次第を全て隠すことなく、俺と秋月の口から風紀に報告する事にした。その決定に秋月が大分渋ったが、俺だけ処罰無しってのはやっぱりスッキリしない。  それから、三日後。  俺は一週間の、秋月には三週間の謹慎処分が言い渡された。

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