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終章:終
◇
「で、俺になんの用なワケ」
目の前に立つ不遜な態度の男、安永。クソ食ったみてーな顔してまで、会いに来て欲しく無いんだけど…。そんな顔見たらこっちだって似た様な顔になってしまう。
「俺だって来たくて来たわけじゃねぇ」
「だったら早く言ってよ」
「うっせぇ!」
やーだ、ヤダヤダ。コイツ絶対俺のこと逆恨みしてるわ。勿論、秋月のことで。
「……が……だょ」
「はぁ? 聞こえねーし」
「だからっ! 神奈が部屋から出て来ねーんだよ!!」
―――は?
「おい、秋月? いい加減出てこいよ」
安永を連れて秋月の部屋へ行き、個室のドアをコンコン、とノックしてみるが応答は無い。
秋月がヘソを曲げたのは三週間前。つまり、俺と秋月が風紀から処罰を下された日からだ。
折角捕まることの無いようにと秋月が動いていたのに、秋月の退学を阻止するために全てを吐露し、結果処分を受けた俺に怒っているのだ。その決定を下した風紀、いや…安永にも。
「お前の謹慎今日までだろ?」
『………』
「何時までヘソ曲げてんだよ、おい」
何度も声をかけるが一向に返事は返ってこない。背後に控えている安永を見れば、状況は何も変わっていないと言うのに妙に嬉しそうだ。
コイツ…俺にも秋月が無反応なのを喜んでやがる。そんな安永にイラッとした俺は、ちょっとした反撃に出た。
「なぁ~んだぁ~、そっかぁ~残念だなぁ~」
『………』
「俺も悪かったなぁと思ってさ? 折角お詫び兼ねてご褒美あげようと思ってたのになぁ」
出てこないんじゃ、あげらんねぇなぁ。
――ガタタッ
「………」
「………」
部屋の中から何かが床に落ちた様な、何かに蹴躓いた様な音が響いた。
『……ご褒美って、なに』
聞こえた声にもう一度安永を振り向けば、先ほどのニヤニヤ顔…いや、ニタニタ顏とも言えるそれは何処かへすっ飛んで行った様だ。へ、ザマァ。
「そうだな、お前が欲しいもん、なんか一個やるよ。もしくはして欲しい事をしてやる。どうだ? 何かあるか?」
『………』
秋月は何かを思案している様で、再び無言になった。そして暫くするとポソリと呟きが聞こえた。『南の…初めてが何か欲しい』と。
「俺の初めてぇ?」
貴方の初めてが欲しい、だなんて、こいつ意外と乙女だな何て思いつつ、それなら、と思い付いたことを口にした。
「だったらさ、俺ってもう、前払いしてんじゃねーの?」
『…?』
「だってお前、俺の処女喰ったじゃん」
『ッ!!?』
さっきよりドアに近づいて来たのかバタバタと騒がしい音がする。
『う、嘘だ! だって南は色んな奴と』
「嘘じゃねーよ。だって俺、タチ専でウリやってたんだし。なのにお前がイキナリ俺をネコにしたんじゃん」
そしたら、中から秋月が転がるようにして出てきた。慌て過ぎたのか転んで、床に転がったまま俺を見上げている。
「それって立派な初めてじゃねーの?」
馬鹿みたいに口をぽっかりと開いた秋月が、一瞬で全身を赤く染めたのが分かった。
相変わらず見えない目元、分かり辛い表情。けど、その前髪の奥できっと、あの時見た目をして俺を見てるんだ。
好きだ、って。
さぁ、もう一度始めようか。
スタートを間違えた俺たちに今、新たなフラッグが振り下ろされた。
END
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