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第34話
「あら。おはよう、ちーちゃん」
「おばあちゃん、おはよう」
「どうしたの? パジャマのままで、枕まで抱えて」
「えっと……ちょっと、ね」
作り笑いを顔に貼り付けた千世を訝しむ祖母だったが、またすぐに元の作業に戻ってしまった。それを手伝おうと、抱き締めていた枕を居間の一角に置く。そして仏壇に手を合わせてから台所へ向かった。
「おばあちゃん、僕もやるよ」
「じゃあお味噌汁に入れるネギを刻んでおいてくれるかしら」
「うん」
こうして祖母と並んで台所に立つことは少なくない。泰志は飲み物やお菓子を取りに来る時くらいしか立ち入らないが。
「ちーちゃん、お父さんとお母さんには挨拶してきたの?」
「もちろん」
それならついさっき、仏壇に手を合わせたばかりだ。
千世と泰志の兄弟は、九年前に事故で両親を亡くしている。それからは母方の祖父母に育てられ、何不自由ない生活をさせてもらっていた。母がかなり若い時に千世を生んだので二人ともまだ六十前半で、たまに祖父母が両親だと思われる。実際、祖父は一家を養うために日々大学教授としての仕事に勤いそしみ、祖母は学校行事には必ず参加してくれた。
父と母はもういないけれど、とても恵まれた環境に居させてもらっていると実感している。
実は千世が廉佳を好きになったのには、過去の出来事も関係していたりするのだ。
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