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第37話

「はぁ……」 「どしたの? 溜息なんか吐いて」 「何でもな――って、泰志!?」  いつの間にか背後にいた祖母が弟と入れ替わっていて、千世は必要以上に驚いてしまう。  誰が原因の溜息なのか、彼に自覚はないようだ。 「千世にぃ怪我してるの? 俺が絆創膏貼ってあげよっか」 「い、いいよ! 自分でできるからっ」 「どこ行くの?」 「もっかい寝る!」  ばたばたと階段を駆け上がり、自分の部屋に戻ってきた千世はドアを閉めるとその場にへたり込んだ。 (ぁあ……逃げちゃ駄目なのに)  頭で理解していても、いざ本人を目の前にすると焦りと羞恥が前面に出てきて千世の身体を突き動かすのだ。 「ほんとにもう一回寝ようかな」  その場を脱するための口実だったが、何となく弟と顔を合わせたくない今、言葉通り寝てしまうのもありかもしれない。  結局逃げていることに違いはないけれど、やっぱりこんな気持ちのままでは話せることも話せない。不貞寝ふてねするには十分すぎる理由だ。と自分を納得させて、さっきまで泰志に侵略されていたベッドに倒れ込む。  今日が日曜日で良かった。痛む腰と気怠い身体、どんよりと重くて暗い気持ちが休息を欲していた。  切ってしまった指の傷は思ったより浅かったようで、もう血が止まっている。  こんな風に、簡単に修復できたら楽なのに。 (あ。枕、下に置きっ放しだった……まぁ、いっか)  まだ眠くはないけれど瞼を下ろす。次に眼を開けたら泰志も廉佳も元通りで、昨日のことは消却されている。なんてことを願いながら。

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