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第40話
それからというものの、通常通りの泰志とそれにびくびくしてしまう千世の攻防は続いた。
やはり英語を教えてくれと頼まれては断り、一緒におやつを食べようと部屋に押しかけられては追い出し、廊下ですれ違いざまに話しかけられればそそくさと自室に籠った。
これではただ弟を避けているだけだ。課題をしているはずが、ペンがなかなか動かない。普段通りなら学習机に向かえば多少なりともやる気になるのに。
「はぁ……」
ぽつり、と吐息が漏れる。
午前中に祖母に言われた『喧嘩』という言葉が頭から離れない。
泰志とはこれまで争ったことはない。玩具は二人で仲良く使い、取り合うことは決してしなかった。嘘をつかれたこともなければ、意見が合わなくて口論になったこともない。
一つだけのお菓子は半分にするか、千世が『お兄ちゃんだから』と我慢した。それでも、弟の喜ぶ顔が見られればそれだけでお腹がいっぱいになるので、狡いと思ったこともない。
両親や祖父母も、どちらかを贔屓 したり特別扱いしたりせずに平等に育ててくれたお陰もあるのだろう。
(こんなの、初めてだよ……)
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