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第50話

 ぺらぺらと読み進めていくと、主人公と青年のキスシーンが現れた。まだ耐性がついていないので、やはり千世は顔を紅くしてしまう。 「俺はな、それを見てBLにハマったんだ」 「へぇ……」  確かに、アマチュアとは思えないほど絵は綺麗だし、殺し屋とマフィアという闇の世界で生きながらも互いのことを好きになってしまう二人の複雑な心情がリアルに描き出されている。  原作でこの二人が恋に落ちることはないのに、なぜかそれが自然だと思えてしまうほど、この本は一つの作品として高いクオリティだった。 「男同士の恋愛ってのは、友情との線引きが難しいんだ。だからこそ、純粋な愛が必要になる。男と女だと恋するのが当たり前って感じがあるだろ。そういうのって普通すぎるというか、凡庸なんだよな~」  急に饒舌になった廉佳に戸惑いを隠せない千世だったが、本人はすっかり自分の世界に入っているようでこちらには全く気付いていない。 (これは……廉佳さんの変なスイッチ押しちゃったかもしれない) 「男がいて女がいる。二人が出逢って恋をする。それは片想いかもしれない。喧嘩もするけど、仲直りして更に互いの距離が近付く。そんで最後は恋人になるなり結婚するなりでハッピーエンドだろ? 男同士だとそう簡単にはいかないんだよ。そこがまた良いんだよな。セックスだって、友情と愛情を分けるコミュニケーション方法の一つなんだ」  一度ストッパーが外れてしまった廉佳は餌を求める雛鳥のように喋り続ける。ここまで熱く語る彼を見るのは初めてだ。きっと、千世が止めに入るまで鳴き止むことはない。

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