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第57話

 千世の脳内で、積もり積もった気持ちが一つずつ弾けていって、それは次第に大きな塊に点火して爆ぜてしまった。  今まで廉佳に『好き』の気持ちを伝えなかったから幼馴染みでいられたのに。彼は多分、もう千世を普通の眼では見てくれない。  それでも、底に穴が開いた桶から水が零れるように、千世の衝動も止まらなかった。 「好き。廉佳さんがずっと好きだったんだ。会う度にどきどきして、これは恋なんだって思ってた。それなのにこんなことするなんて、廉佳さんは酷いよ!」 「千世ごめん、俺、お前のこと何も分かってやれなくて――」 「僕は……僕は廉佳さんが好きだから、こんな形じゃなくて、もっとちゃんと向き合いたかった!」 「あ、おい千世!?」  廉佳に腕を掴まれそうになったが、その手を振りほどいて千世は部屋を飛び出した。  こんなに声を張り上げたのは初めてだ。泰志にもまだしたことがない。  廉佳が追いかけてきてくれそうな気もしたけれど、振り向くことなく玄関へ直行した。靴を引っかけたまま外に出て、息つく間もなく自分の家に駆け込む。乱暴にドアを閉めると、急に足の力が抜けてそのまま土間にしゃがみ込んでしまった。 「千世にぃ、どうしたの?」 「!?」  何とそこには弟が立っていて、千世を心配そうに見下ろしている。 「泰志、今帰ってきたの? 遅かったね」 「コンビニ行ってたんだけど、クラスの友達とばったり逢ったから話し込んじゃって」 「そう……おかえり」 「千世にぃはどこ行ってたの? すごい焦ってなかった? それに――もしかして泣いてた?」

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