56 / 234
第57話
千世の脳内で、積もり積もった気持ちが一つずつ弾けていって、それは次第に大きな塊に点火して爆ぜてしまった。
今まで廉佳に『好き』の気持ちを伝えなかったから幼馴染みでいられたのに。彼は多分、もう千世を普通の眼では見てくれない。
それでも、底に穴が開いた桶から水が零れるように、千世の衝動も止まらなかった。
「好き。廉佳さんがずっと好きだったんだ。会う度にどきどきして、これは恋なんだって思ってた。それなのにこんなことするなんて、廉佳さんは酷いよ!」
「千世ごめん、俺、お前のこと何も分かってやれなくて――」
「僕は……僕は廉佳さんが好きだから、こんな形じゃなくて、もっとちゃんと向き合いたかった!」
「あ、おい千世!?」
廉佳に腕を掴まれそうになったが、その手を振りほどいて千世は部屋を飛び出した。
こんなに声を張り上げたのは初めてだ。泰志にもまだしたことがない。
廉佳が追いかけてきてくれそうな気もしたけれど、振り向くことなく玄関へ直行した。靴を引っかけたまま外に出て、息つく間もなく自分の家に駆け込む。乱暴にドアを閉めると、急に足の力が抜けてそのまま土間にしゃがみ込んでしまった。
「千世にぃ、どうしたの?」
「!?」
何とそこには弟が立っていて、千世を心配そうに見下ろしている。
「泰志、今帰ってきたの? 遅かったね」
「コンビニ行ってたんだけど、クラスの友達とばったり逢ったから話し込んじゃって」
「そう……おかえり」
「千世にぃはどこ行ってたの? すごい焦ってなかった? それに――もしかして泣いてた?」
ともだちにシェアしよう!