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第70話

「つーか宇藤はすぐ顔紅くなるよな。福津先輩、男だけどやっぱ照れるもんなの?」 「ま…まあ、ね」  まさか彼との情事に悩んでいるとは言えるはずもなく。適当に話を流しておくだけにしておいた。  広い広い学食の雑踏の中で、彼の影はとっくに見えなくなっている。 「そういえば、次の授業休講だけどどうするの?」 「あー、教授が学会だから休みになったんだっけ。こうやって学食でだべってようかと思ったけど、宇藤は違うのか?」 「僕は図書館に行こうかと」 「せっかくの休講なのに図書館かよー」 「勉強しに行くんじゃないよ。ちょっと静かなところで本を読みたくて」 「ふーん。じゃあ俺は他の奴らとゲームでもしてるか。そういうことだから、先に行くな」 「うん、また後でね」  既に昼食を食べ終わっていた友人と一旦別れ、千世は弁当の残りをかきこんでから食堂を後にした。 (そういえばさっきの廉佳さん、僕に話しかけてくれなかったなぁ)

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