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第72話

 ただでさえ気まずくなっていたのに、心の準備もなく遭遇してしまったから何を話せば良いのか全く分からない。もう少し一緒にいたいような、早くこの場を離れたいような、どちらともつかない気持ちの間で揺れていると、廉佳が何も言わず学食に入ろうとしていて。千世はこう口走っていた。 「れ、廉佳さんは僕のこと嫌いになっちゃったの?」  廉佳の足がぴたりと止まる。無視されたらどうしよう。そればかりが心配で、廉佳がこのまま自分に背中を向けるところを見なくて済むように眼を瞑った。  だがそれはすぐに開かれる。千世の上腕を、廉佳がぐっと掴んできたからだ。 「ここは人が多いから、場所を変えよう」 「え、あっ…ちょっと――廉佳さん!?」  そのまま腕を引っ張られてどこかに連れ出される。場所を変える必要があるということは、良い話ではないのだろう。 (僕……やっぱり振られるのかな)  不安と恐怖が入り混じり、千世から元気を奪っていく。もつれそうになる足を叱咤してどうにか廉佳について行くも、顔を上げる元気までは出なかった。  やがて二人は誰もいない校舎裏に辿り着く。 「走らせてごめん、大丈夫か?」 「はぁ、はぁ…だい、じょぶ」  運動が苦手な千世にとって彼に付いていくのは楽ではなかったが、あまり長い距離ではなかったので少し息が上がった程度だ。それでも廉佳は千世が落ち着くのをちゃんと待ってくれた。

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