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第74話
「やば、漫研の部誌の原稿、まだ提出してないから逃げてるんだ」
「行かなくても良いの?」
「いや、行かなきゃまずい。この話はまた後でにさせてくれ」
「う、うん。頑張ってね」
慌ただしく走って行ってしまった廉佳の後ろ姿を見つめながら、千世はあることに気が付いた。
(ん? あれ? 取りあえず廉佳さんが僕を嫌ってないことは分かったんだけど……『好き』じゃないんだよね)
肝心なことを聞き忘れていた。『嫌いでない』と『好き』は必ずしもイコールで結ばれない。せっかく告白を認めてもらえたのに、これでは幼馴染みからあまり進展していない。
三歩進んでは二歩下がるようなもどかしさに、いつまで苦しめられるのだろうと気が遠くなってしまう。
だが廉佳はさっき『この話はまた後でにさせてくれ』と言ってくれた。恐らく近いうちに、また二人で話せる時が来る。それを待ち遠しく思いながら、千世は図書館の方へと足を向けた。
(あれ……そしたら泰志は……?)
そこで大切なことを思い出した。千世が廉佳を好きなことで喪ってしまうものが一つだけあったのだ。
それは泰志の恋心。廉佳を好きでいることを許されたのなら、泰志の気持ちは断るしかない。しかも一週間の期限は今日がタイムリミットだ。いつまでも返事を延ばしてないで、兄としてけじめを付けなければ。
(ごめん泰志、僕はやっぱり廉佳さんが好きなんだ……)
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