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第75話

 その日の夕方のことだった。祖父は仕事、祖母は町内会の慰安旅行、泰志は委員会の仕事で遅くなるので今は家に千世しかいない。家に一人でいるなんてあまりないから心細さを感じてしまう。  千世は薄暗い部屋で、やる気も起きないのでうずくまってぼんやりと本を読んでいると、一本の電話がかかってきた。画面を見ると、なんと廉佳の文字が表示されている。まさか今日のうちに連絡してくるとは思ってなかったから、飛び上がるほど驚いてしまった。 「も、もしもし廉佳さん!?」 『おぅ千世。今大丈夫か? ちょっと話したいんだけど』 「いいよ、僕そっち行こうか?」 『いや、来なくていい。電話で話させてくれないか? 対面する勇気がないんだ、済まん』  廉佳が弱気なことを言うなんて珍しい。いつもは悠々といている彼だが、よほど緊張しているのだろう。電話口から大きく息を吸ったり吐いたりする気配がある。

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