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第80話

「どうせまだ二人がモデルのことで揉めてるなら、俺がつけ込んで廉にぃの前で『千世にぃは俺のだ』って言おうとしたのに!」  包み隠さず本音を打ち明ける弟の潔さにはもはや感心する。こんなに拗ねた様子の泰志を見るのは久し振りだ。 (って、今はそれどころじゃない!)  呆然と泰志を見上げていてふと我に返る。愛人なんてふしだらな関係、弟と築くものではない。 「泰志はそれでいいの? 廉佳さんも何とか言ってよ」 「別に構わないけど」 「ほら廉佳さんだって反対――しないの!?」  廉佳も反対するものだとばかり思っていたのだが、彼はあまりにもあっさりと肯定してしまう。  三角関係よりもさらに拗れた複雑な関係になってしまうが、なぜ廉佳は止めないのだろう。 「俺達ガキの頃からの付き合いだろ? 千世のこと好きだけど、泰志は愛人でいいって言ってるし、ここで(いが)み合う必要はないんじゃないか?」  一見まともなことを言っているようだが、詰まるところ恋人公認の浮気相手がいるようなものだ。二人が良くても、真面目な千世はそれを許すわけにはいかない。 「うんうん。恋人は廉にぃのままで良いから。俺も千世にぃと付き合いたいんだよ」 「そういう問題じゃ……っ」

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