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第101話

「俺、兄貴のこと好きすぎて抑えが効かなくなるかもよ?」 「ちょ、読み上げなくていいよ!」 「そうだぞ。描いてる方だって結構恥ずかしいんだからな」 「あはは、ごめんごめん」  空気を読まない泰志が二人がかりで非難される。こんなことをされると漫画の主人公を自分に置き換えてしまいそうになるから止めてほしいものだ。  仕切り直して再び原稿に目を落とす。  そこから先は、千世が始終顔を真っ赤にしていた。腕を縛られて、弟の熱を受け止める兄の姿は何とも妖艶で色気に富む。その顔は自分にそっくりで、以前見せられた、泰志に犯されている時のスケッチを思い出してしまう。  目の前にいるキャラクターは全くの別人なのに、まるで本当に泰志に犯されている錯覚に陥った。 (なにこの絵……えろすぎるよ)  だんだんと激しさを増す情交の最中(さなか)、兄は大粒の涙を流しながら喘いでいる。だが二人の間には愛があるから、一方的な仕打ちに見えることもない。  千世は羞恥のあまり何度も読むのを断念しそうになるが、何とか最後まで読み切った。 「す、すごかった……」 「ね。俺も男なのにドキドキしちゃったよ~」  本当にどきどきしていたのか知らないが、泰志はあっけらかんとした様子だ。彼はいつもこんな調子だから今更気になることでもない。 「廉佳さんの漫画、凄く上達してたと思うよ」 「本当か?」 「うん、素人だから詳しいことはよく分かんないんだけど、でもキャラの心情描写がリアルで感情移入しやすかったよ。あと、その……絵も良くなってた」

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