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第103話

 廉佳ならきっと、いや絶対夢を叶えられる。彼にはそれだけの実力があることを知っている。  だから千世も、彼を信じて背中を押すまでだ。 「なぁ千世、もし俺がこれで賞を取れたら――……」 「ん?」 「あー、いや。やっぱ何でもない」 「なになに? 気になるよ」 「悪い、また今度言うわ」  上手くはぐらかされてしまったが、廉佳の言葉は千世にもやもやとしたわだかまりを残していく。中途半端なままでは気になって仕方ない。  だがあまり追求しても無意味なので、千世はぐっと堪えて意識から消し去ろうと努めた。 「そうだ千世、これからもお前のことモデルにしても良いか?」 「えっ……、まあ……ちょっとなら」  話をあらぬ方向へ切り替えられて動揺したが、千世は口籠もりながらも承諾してしまう。彼の『ちょっと』が当てにならないことを知っていながらこう言ってしまう自分もまた同罪だ。 「次の話はもっとキスシーンを濃厚に描きたいんだ。協力してくれるよな?」  椅子から立ち上がった廉佳が、二人の座るベッドに近付く。だが彼は泰志の方へは目もくれず千世の顎のラインをするりと撫で上げた。 「い、今からやるの!?」 「駄目か? ちょっとなら良いんだよな」 「でも、心の準備が――」 「あのーお二人さん、俺も居るんですけど」  横から泰志のわざとらしい咳払いが聞こえてきてはっとする。

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