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第104話

「こっからはオトナの時間だ。ガキは出てけ」 「はあ? 大学生か高校生かってだけじゃん! 俺も混ぜてよー」 「泰志は愛人だろ。俺は千世の恋人なんだ、まずは俺が据え膳食ってもいいだろ」 「ちょ、ちょっと二人とも。喧嘩は止めてよね」  あくまでも平穏に仲良くしていたい千世は、両側から抱きついてくる泰志と廉佳を牽制(けんせい)する。 「大丈夫だ千世。俺達はいつまでも仲良しのままだぞ」 「そうそう。俺と廉にぃは幼馴染みの他に『恋敵(ライバル)』っていう関係が加わっただけだから。廉にぃのことも嫌いになったりしないよ」 「あぁ、そう……なら良いんだけど」  このよく分からない関係が続いていくのかと思うと気苦労が増えそうだ。だが、それ以上に心が浮き立っている自分もいた。  何の変哲もない日常に突然降りかかった恋の珍事は、千世からすれば天変地異だ。だが、それすらも奇跡に思えるほどの日々が始まろうとしていることを知っている。廉佳がいるだけで、泰志がいるだけで幸せだから、三人でいればもっと幸せ。これからも廉佳に恋をして、泰志と仲の良い兄弟でいられるのだと思うと胸の高まりが止まらない。  千世は両脇にいる廉佳と泰志の手を取ると、湧き上がる喜びにそっと口元を緩めたのだった。

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