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第2章 第105話
「はぁ……溶けそう」
千世は居間にある扇風機にあたりながら畳の上に寝転がっていた。うだるような暑さの中、同じく居間に居た泰志も勉強が捗 らないようで、ちゃぶ台に突っ伏している。
「ねぇ千世にぃ」
「なに?」
「何でうちのエアコン、こんな猛暑の日に限って壊れるんだろうね」
「さあ……」
(ごめん、暑すぎて喋る気が起きない……)
大学生になって初めての夏休み。大変な課題があるわけではないので、ずっと読みたかった本を読もうと思っていたがこの有様だ。もう十年以上使っていたエアコンだから寿命だったのだろう。今、祖父母が新しいものを見に行っているところだ。
「泰志、これで勉強できてるの?」
「できるわけないよ~……」
スタイリストを目指している泰志は、服飾のことが学べる専門学校へ行くために猛勉強中だ。十一月の推薦入試に向けて着々と準備を整えている。
彼の受験が上手くいけば、千世と廉佳とは別の学校に通うことになってしまう。いつも二人の輪に入りたがっていた泰志に、それでいいのかと尋ねたこともあったが、彼からすれば天秤にかけるものが違うのだという。
千世の質問は泰志にとって『ハンバーグとバスケットボール、どっちが好き?』と聞かれているようなものだ。夢を叶えるために何が必要なのか、彼はちゃんと分かっている。
そもそも周りに流されて進路を変えるような弟ではない。少し見くびっていたと、あの時反省した。
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