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第108話

 脈絡のない話を持ちかけられて警戒する。泰志の笑顔がいつもより深いときは、何か企んでいることが多いからだ。今だって例外ではない。 「今日はじいちゃんもばあちゃんも遅くなるんだよね? だから、俺達は俺達で夜まで楽しもうよ」  久し振りに二人揃っての外出だからゆっくりしてきたらどう、と言って祖父母を送り出したのは千世だ。すると祖母は喜んで、エアコンを見た後軽く買い物をして夕食を食べてくる、と話していたから二人が帰るのは夜遅くになる。  それは構わないのだが、泰志は何を考えているのだろう。 「ど、どうしたの? って言うか、暑すぎて寝てるだけで汗かくんだけ……ど?」  語尾が疑問形になったのは、横になっている千世の上に泰志が覆い被さってきたからだ。 「ならもっと体温上げようか。上げた分、下がるときに涼しくなるかもよ」 「――ッ!」  泰志の言わんとしていることがようやく理解できて千世は耳まで紅く染めた。  汗をかいたら涼しくなる、なんてただの口実に過ぎなかったのだ。 「駄目だよ、僕汗臭いかもしれないよ」 「そう? 千世にぃはいつもいい匂いだけど」  首元に顔を埋められて、くすぐったさに身悶える。遠回しに断ったつもりなのだが通じていないらしい。  さらに汗の筋をぺろりと舐めては鎖骨に歯を立てられる。その度に千世の肩が小さく跳ねた。

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