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第120話
「どうだ千世、そんなに大変な仕事じゃないだろ」
人の波が途切れた隙に廉佳が声をかけてくれる。
バイトを始めて数時間。廉佳がやって来る高校生たちの受け付けをし、千世がパンフレットを渡すという単純な作業だった。高校生と喋るのは全て廉佳がしてくれているから、千世はその横でパンフレットを差し出すだけでいい。
「でもごめんね。僕、全然役に立てなくて」
「そんなことないよ。俺は千世が隣に居るだけでやる気が出るから」
陰りのない笑顔を向けられて、千世はその眩しさに眼を細めた。彼の喜色 は真夏の太陽よりも爽やかで。あんまり眩しくて眼に染みるから、つい顔を伏せてしまう。
「休憩までもう少しだから、頑張れよ」
廉佳に頭をぐしゃぐしゃと撫でられる。子供扱いされているようで複雑な気分になるが、その仕草が好きだった。
千世も彼に微笑み返し、目の前の仕事に向き直る。
受付は校門の両側に一カ所ずつあり、千世達はその一方を任されていた。よく運動会の本部に使われているようなテントの下で日陰にはなっているのだが、如何 せん暑い。今朝見てきた天気予報によると、今日は猛暑日になるそうだ。
「水分補給もするんだぞ。ドリンクないなら俺が貰ってこようか?」
「大丈夫だよ。ありがとう」
優しい廉佳はさっきから千世のことを気遣ってくれるが、恋人になってからは少し過保護になってきたように感じる。甘えすぎるのも悪いので、極力彼の厚意に頼りすぎないように心がけた。
そこから三十分ほどして、交代のスタッフがやってくる。これから千世と廉佳は一時間の休憩だ。
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