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第122話
「――腕を上げたんじゃないのか。すっごい美味しいよ」
「良かったぁ、早起きした甲斐があるよ」
作っている時に味見もしたから自信はある。廉佳好みの味になっているはずだ。
おにぎりを囓りながら、こんなに体力を使うならもう一回り大きなものを作ってくれば良かったと悔やんでいると、じっとこちらを見つめる視線に気付いて横を見る。
「廉佳さんどうしたの? あ、ご飯粒付いてる?」
「………」
てっきり自分の口元に食べかすでも付いているのかと思って指先で探ってみるけれど何も触れなかった。
では廉佳はどうしてしまったのだろう。真剣に千世をじっと見つめてくる。
(もしかしておにぎりの具、梅干しじゃない方が良かった……とか?)
彼がそんなことをいちいち気にしない質 だと知ってはいるが、そうでもしないと説明がつかない。千世が無意識のうちに怒らせてしまったということもあり得る。
とにかく、廉佳は何か気になるところがあると黙ってそこを穴が開くほど見つめるのだ。
「えっと……僕、何かしちゃったかな?」
「――……それ」
「へ?」
廉佳が指をさした先は千世の首元。スタッフTシャツの襟の辺り。
「これが、何?」
やはりMサイズは千世には大きくて襟がかなり緩く、袖は肘の近くまであった。
Tシャツの中が多少見えてたとしても自分は男なのだから、と気にしてもいない。服を摘まんで扇ぐようにぱたぱたと動かしてみせる。
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