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第125話

 彼の右手が千世の頬を包み込む。その温かい感触に千世は密かに安堵の溜息を漏らした。 「なんか、俺達ってほんと複雑な関係だよな」  廉佳が笑い混じりに言う。それについては千世も同意せざるをえない。 「ごめんね。僕が廉佳さんか泰志か、どっちかを選べば解決するのかな……?」 「ははっ、どっちかなんて選べるのかよ」 「……む、無理です……」  言い出しっぺは自分だが、大切な二人のうち一人を選んでもう片方を切り捨てるなんて酷なこと、想像すらできない。廉佳が今のままで良いのなら甘えさせてもらうしかない。 「その代わりさ、泰志が千世にしてないこと、絶対にしないだろうなってことやりたいな」 「絶対にしないこと?」  泰志がしそうにないこと。パッとは思い付かないけれど、廉佳と泰志はこう見えて似ているところがあるから、本人達にしか分からないこともあるだろう。 「――絵とかどうだ?」 「絵? スケッチするってこと?」 「そうそう。俺も絵の練習になるし、可愛い千世の姿を収めて、千世の記録日記~みたいな」  そう言って廉佳は鞄からスケッチブックと筆箱を取り出す。 「あの、前から思ってたんだけど、僕のどこが可愛いの?」

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