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第129話

 というのも、ここ八号館は主に理学部と工学部の、理系の生徒達に使われているからだ。千世は足を踏み入れたのも初めてだ。  ここは二年前に新築されたばかりで傷や埃も少なく、廊下もぴかぴかだった。 「廉佳さん、理系の人に友達でもいるの?」 「そうじゃないんだ。今日は背景を描く練習用に写真を撮りたくて。ここはできたばかりで綺麗だし、いつもは人がいてゆっくり写真なんて撮れないだろ。理系の人ばっかだと入りづらいしな」 「なるほど~」  まだくすんでいない階段を上り、ひとまず三階までやって来た。 「そのアイス、まだ溶けてないよな?」 「う~ん、そろそろ食べないとまずいかな」  袋の中に手を入れて軽く触れてみると、冷凍庫から出したばかりのような硬さはとうに消え失せていた。少しだけ柔らかくなったアイスの感触が、外装越しに伝わってくる。 「なら歩きながら食うか」 「た、立ち食いは――」 「俺たち以外誰もいないんだ。ちょっとくらい良いだろ」 「あっ……もう、仕方ないなぁ」  廉佳は千世が腕から提げていたレジ袋からアイスを取り出すと、さっさと包装を取って口に入れてしまった。  昔から祖母には礼儀作法のことについて色々言われてきたから、歩きながら食べるというのはやや抵抗がある。だが廉佳はもう食べ始めているし、このまま放置してもアイスを無駄にしてしまうだけなので千世も頂くことにした。 「冷たくて美味しいね」  千世のものは苺ミルク味。口の中で形を失っていくそれは、甘酸っぱい味と余韻を残していく。  自分一人だったら適当な場所に腰を下ろしてゆっくり食べるところだが、廉佳と一緒に話ながら食べ歩くのも悪くない。普段止められていることをしているせいもあり、だんだんと楽しくなってきてしまった。いけない、と言われていることをしてわくわくするなんて小学生みたいだ。

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