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第133話

「ん、ぁあ……ん、ぅん」  一旦唇が離れたかと思うと、角度を変えてまた口付けられる。  彼はよく舌を吸い上げてくる泰志とは違って、歯茎を舐めたり上顎をくすぐったりするのが好きなのだ。  廉佳に、ほぼ完全に体重を預けるまで千世の身体が蕩かされてようやく口が解放される。 「いつもと違う場所でヤるのも面白いだろ」 「ぁ、はぁ…面白いっていうか……はらはらするね」  万が一誰かが通りかかったらどうしよう。文学部の王子様と言われている廉佳が、千世のような平凡な、しかも男とキスをしていたとなれば彼の名を(けが)してしまう。  それを伝えると、廉佳は大きな声で笑うのだった。 「それもいいかもな。『俺の彼氏はこんなに可愛いんだぞ、みんな見てくれー』って俺の方から言いふらしたいくらいだ」 「な、ななな何言って……」 「冗談。誰にも見せないし言わないよ。千世のこんなところ」 「っ――んぁ」  抱き竦められたままで身体をまさぐられ、鼻にかかった声が出る。 「あの…せめて場所……誰にも、見られない所がいいな……」 「うーん、それなら――あそこは?」  廉佳が指したのは十歩くらい先にある男子トイレ。確かにあそこなら周りから見えることもない。だがそんな所で事に(ふけ)っても良いのだろうかと考えていると、急に千世の視界が大きく傾いた。ふわっと身体が浮き上がった感覚に面食らう。

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