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第3章 第143話
「泰志、重いよ~~」
「んー?」
「『んー?』じゃなくて……」
九月も初旬。泰志は新学期が始まり、千世はもうすぐ後期の授業が始まる頃。秋の夜長を楽しもうと、風呂上がりに部屋で静かに本を読んでいた時だった。千世より前に風呂に入っていた泰志が入ってきてじゃれついてくる。
「っ、くすぐったいよ」
髪の毛を弄られて千世の首元が露わになった。そこには噛み痕もキスマークも残っていない。
一時期泰志と身体を重ねている時の噛み癖が酷かったのだが、最近は痕が残るほど歯を立てられることはなくなった。それも素直に目立つところに痕を付けるのは止めるよう頼んだら、案の定千世の言うとおりにしてくれたからだ。
その代わり内腿や腰周りには二人の愛の印が今も残っている。風呂場でそれを見る度に行為のことを思い出して恥ずかしくなるが、なんだか二人のものになったようで悪い気はしなかった。
ベッドの上で壁に背中を預けて座っていた千世の横に泰志も腰を下ろし、こちらにもたれて本を覗き込んでくる。
「何読んでるの?」
「僕の好きな作家さんの新刊」
「俺も読みたい!」
「ミステリー小説だよ」
「やっぱやめる………」
「あはは、今度別の本貸してあげるよ」
弟とこうして何ともない会話をするのは落ち着く。素の自分でいられる気がするから。
廉佳と居るのも落ち着くが、それはまた種類が違う。泰志とは体重を支え合って互いに寄り添えるが、廉佳は千世が寄りかかってもびくともしない包容力があって落ち着くのだ。
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