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第149話

「あっ、廉佳さん!」 「さすが千世、時間ぴったりだな」  手を振ってくれた彼の元へ駆け寄る。 「すごい人だね、こんな所来るの初めてだよ。あっ、これ廉佳さんが描いた本? いっぱいあるんだね、何冊くらい売るの? 僕は何をすれば良いのかな?」  初めての場所に来たせいと廉佳に出会えたせいで興奮気味の千世は廉佳を質問攻めにしてしまった。それでも廉佳は優しく、一つずつ答えてくれる。 「ああ、俺が描いた同人誌だ。新刊五百冊と既刊二百冊持ってきたんだけど、千世には売り子の手伝いをしてほしいんだ」 「売り子? でも廉佳さん昨日、座ってるだけで良いって……」 「まあ売り子って言っても形だけだ。千世は着替えてここに座っててほしい」 「まあ、それなら。っていうか七百冊って、かなりの量売るんだね。新刊って言ってたけど、いつの間に描いてたの?」 「俺は割と楽な学部だし、他の奴らみたいなバイトもしてないからな。それに今夏休みだから時間は腐るほどあったんだよ。あ、でも授業サボったとはあるのは内緒な」  子供と約束をするように口の前で人差し指を立てる廉佳を見たら、人混みの中を歩いてきた疲れなど吹き飛んでしまった。彼に招かれてスペースの中に入ると、それまで廉佳の方ばかりに向いていた視線が他の所にも届くようになった。  テーブルクロスが敷かれた長テーブル半分の空間には本のサンプルやPOPが立ててあったり、本以外にもポストカードが並んでいたりした。背後には大きなポスターが飾られていて、さながら小さなお店のようだ。  テーブルの上をじっくり見ていたら、新刊の表紙ある文字が眼に留まる。

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