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第151話
廉佳がテーブルの下から紙袋を取り出す。それは何かの衣装が入っているようだった。
「何これ」
「コスプレ」
「へぇ……――え?」
聞き間違いだろうか。
コスプレとはアニメや漫画のキャラクターに扮装 すること。それを、この自分にやれという廉佳は夏の暑さで頭がやられてしまったのかもしれない。失礼だとは思うが、そう考えたくて仕方なかった。
「あの、僕がコスプレして何のメリットが?」
「そりゃメリットだらけ、いやメリットしかない。衣装は友達から借りたんだけど千世に絶対似合うのを選んだし、お前が着たらかなりクオリティーの高いものになる。売り子がコスプレとなれば目立つから新規の読者も見込めるぞ」
握り拳を作って力説する廉佳を引き気味に見ていると、彼の手が千世の腕を掴んだ。
「よし早速着替えに行くか、コスプレ登録はもうしてあるから安心しろ。あと千世一人じゃ不安だろうから俺も付いてくよ。そういうことだから、しばらくここは任せた!」
廉佳が親指を立てるポーズをすると、彼女も同じく親指を立てて「任せて!」と意気込んだ。
「廉佳さん、離れても大丈夫なの?」
「この時間はまだ買い手が少ないからな。少しくらい平気だよ」
腕を引っ張られてスペースから連れ出される千世に、行ってらっしゃーい、と明るく送り出す彼女の声は暢気 にも薄情にも、はたまた喜んでいるようにも聞こえた。
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