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第156話

 廉佳の言うことはいまいち理解できなかったが、何一つふざけていないことは分かる。 「なんか、廉佳さんってこういうときキャラが変わる……よね」 「悪い。引いたか?」 「ううん、そんなことない。そうやって全身で楽しんでる廉佳さんが見られるのって貴重だし、好きなものに一生懸命な廉佳さんも――好き、だよ」  普段は照れ臭くて言えないが、コスプレをしている方が何倍も恥ずかしいのでその言葉は自然と出てきた。そんな不意打ちに彼はどんな反応を示すだろうか。 「――千世……今それ言うのは狡いってば」 「えへへ。でも廉佳さん、意外と冷静なんだね」 「いやなんかもう、驚きすぎて逆に冷静になったわ」  そう言いつつも廉佳は耳が赤くなっている。今日は彼にひと泡吹かせるのにぴったりだ。 「ほら、もう行くぞ」  照れ隠しなのか無愛想に言うと、荷物をまとめて再び千世の手を取った。そんな廉佳に思わず噴き出してしまったが、更衣室を出る頃にはすっかり元の千世に戻っていて。 (は、恥ずかしい。みんな見てるよ……)  すれ違う人々の視線が痛いくらいに刺さってくる。二人組の女性は千世を見てひそひそと耳打ちをしたり、その次に横を通った人はこちらを三回も振り向いたりした。ホールへ戻る道のりが来る時よりも長く感じられる。

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