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第159話
***
「済みませーん、写真撮っても良いですか?」
「ごめんねー、この子写真はNGなんだ」
「そうですか……じゃあ握手してもらっていいですか?」
「あ、握手!?」
「千世、ちょっとで良いからしてあげな。サービスだよ」
「うん……あ、えっと――どうぞ」
「きゃあー、すべすべしてる! ありがとうございます、私、一生の思い出にします!」
「できれば早めに忘れてほし――」
「こら千世」
千世がコスプレをしてスペースに座ってから一時間もしないうちに、廉佳の本を買い求める人が常に五人程度の列を成すようになった。
サンセット・スナイパーのオンリーイベントなだけあって、ここに来る人はみんな千世が扮するキャラクターを知っている。だから通りかかる人のほとんどが足を止めて千世を見たり囃 し立てたりするのだ。それが恥ずかしくて仕方ないのに、今のように写真をとってほしいと言う人まで現れた。
千世が困っていると廉佳が助け船を出してくれるのだが、忙しくしている彼の手を煩わせるのも申し訳なくなってきた。
廉佳の、お買い上げありがとうございまーすという声をもう何百回聞いただろうか。それなのに自分はいつまで経っても彼の手を借りることしかできなくて。
「はぁ」
「ちーせ。もっと笑顔でいた方が可愛いぞ」
「でも……」
「千世を見た人はみんな喜んでくれてるんだ。お前も喜んだらどうだ?」
(喜ぶ?)
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