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第161話

 お金の管理をしながらも買い手とコミュニケーションを取って、ずっと立っていた廉佳の顔にもさすがに疲れが見えてくる。彼が言うには、いつもならイベント終了の三十分前くらいで完売するかしないかの本が捌けるらしいが、今回はまだその時間まで一時間はあるのに段ボールの中が空になっていた。残りはテーブルに出ている十冊弱だけだ。 「僕はただ立ってるだけだよ。きっと廉佳さんの絵が綺麗だから、みんな買ってくれるんだよ」 「そうか? まあ、前より上手くなってる自信はあるしな! でも千世が居てくれないとここまでは売れなかったよ。ありがとな」 「え、えへへ……恥ずかしいけど、みんな喜んでくれてるみたいで良かったよ」  千世は頭を掻きながら廉佳の気持ちを素直に受け止めた。  イベントもそろそろ大詰めだ。本が完売するように自分にも出来ることをしよう、と棒になった足に活を入れる。  そこへある人物の声が聞こえてきた。

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