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第162話

「――やっほー廉にぃ。遊びに来たよー」  それは間違いなく弟のものだった。だがなぜだろう。彼はここには居ないはずなのに。  千世は声のした方を向く。  そうして見つけてしまった。周りの女性達より頭一つ分背が高い影を。 「泰志!? 何でここにいるんだ、駄目って言っただろ」 「二人が何やってるのか気になって来ちゃった。それにしても暑いね~」 「全く仕方ないな。勉強しなくていいのか?」 「まあまあ、息抜きだよ。それで、肝心の千世にぃはどこ?」 「さっきからお前の眼の前にいるだろ」 「え?」  泰志が視線をこちらに移す。千世とばっちり眼が合ったのに、彼は黙ってじっと眺めるだけだった。  数秒間そうした後、彼は流れるような動きでズボンのポケットからスマートフォンを取り出して、そのカメラを千世に向けてシャッターを切った。 「ちょっと撮らないでよ、今すぐ消して!」 「おいおい、何も言わずに撮るのはエチケット違反だぞ」 「ごめん、千世にぃが可愛すぎて手が勝手に動いてた」 「その気持ちは分からんでもない。後で俺にも送っといてくれ」 「廉佳さん!?」  味方だと思っていたのにあっさりと泰志の側に付かれてしまった。  三人が仲良く話していると、売り子の彼女が心配そうに廉佳に合図を送る。廉佳が千世の弟だと説明したら納得してくれたので一旦売り場の対応を任せることにした。人の流れも落ち着いてきたので、彼女一人でも大丈夫だろう。 「いや~まさか、恥ずかしがり屋で人見知りであがり症の千世にぃがコスプレなんて……」  感慨深そうに言う泰志だが、こういう形で身内に見られるのが一番恥ずかしい。千世自身こんな格好をするのは最初で最後にするつもりだ。

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