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第170話

 彼が受けようとしている専門学校は、教科の試験はさることながら面接の配点が高くなっている。泰志ほどのコミュニケーション能力があれば苦労はしないし、実際彼は学校の先生とも何度も練習を重ねていた。しかし緊張で実力が発揮できなければ元も子もない。何とかして弟の力を抜いてやりたかった。 「そうだ泰志、じっとしてても落ち着かないから、もう一回持ち物のチェックしよう」  既に五回は行ったが、念には念を入れておく。 「まずは鉛筆と消しゴム。二個ずつ以上入れておくと安心だよ。シャーペンでも良いみたいだけど、僕は鉛筆が良いと思うな。シャーペンだと試験中に壊れるかもしれないし、そうなったときすごく焦るからね」 「さすが、経験者は頼りになるね~」 「あと時計。壁にかかってるだろうけど、やっぱり手元にあった方が便利だよ。それからハンカチとティッシュでしょ。あ、面接があるんだから手鏡も持った方が良いかな。身だしなみも大事だよ」  たった今思い付いて、机の引き出しを開けて折りたたみ式の鏡を取り出した。彼の部屋だろうと、どこに何があるのかは分かる。 「受験票に顔写真は貼ってあるし、これで揃ったね」 「ありがと。ちょっとは心に余裕が出てきたかな……」 「明日は僕がお弁当作るから。試験の時も気張りすぎないでね」

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