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第171話

 いくら落ち着いてと言っても、適度の緊張も必要だ。千世には応援することしかできないけれど、だからこそ明日は一〇〇%、いや一二〇%の力を出してほしい。その為にも気合いの入った弁当にするつもりだ。 「そうだ、どんなおかずを入れてほしいとかリクエストがあったら――うわっ」  急に泰志が肩を押し倒してきて床に倒れ込んでしまう。  元からカーペットが敷かれた床に座っていたのでどこもぶつけなかったが、自分の上に馬乗りになっている泰志の顔は照明の光が遮られて暗く見えた。 「俺は千世にぃが食べたい」 「なっ、何言ってるの、受験は明日なんだよ」 「でも千世にぃパワーを溜めないと頑張れない~」  首元に抱きついてきて泣き言を言う泰志はまるで大きな子供だ。宥めるようにその背中をぽんぽんと叩くが、離れてくれる気配が微塵(みじん)も感じられない。 「泰志、そろそろ苦しいんだけど――」 「千世にぃ、シよ?」  真顔でなんてことを言い出すのだろう、この弟は。

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