182 / 234
第183話
「千世にぃだって辛かったはずなのに俺を励ましてくれて、ちょっとずつだけど元気が出てきたんだ。その時、凄いって思ったよ。さすが俺のお兄ちゃんだな、って」
「そう……僕、ちゃんと『お兄ちゃん』になれてたんだね。よかった」
「千世にぃはいつだって俺のお兄ちゃんだよ。でもあの時の千世にぃはほんとに、惚れるくらい優しくて、惚れるくらい頼り甲斐があって、惚れるくらい『お兄ちゃん』だった。だから惚れちゃったんだ」
泰志の笑顔はいつだって無邪気だ。昔から変わらない。
「そしたらいつの間にか千世にぃはどんどん可愛くなってくし、仕草の一つ一つすら好きなんだ……これは完全に恋なんだよ」
「そっか」
――それなのに、泰志は愛人でいいの?
こんなこと、明日受験がある弟に言う言葉じゃない。千世はそれをぐっと飲み込んだ。
「泰志の気持ち、すごく嬉しいよ。ありがとう」
「うん……好きだよ、千世にぃ」
弟の言葉は、残酷なほど甘く響いた。
ともだちにシェアしよう!