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第184話
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「泰志、大丈夫だったかなぁ……」
翌日、弟を送り出したはいいものの、どうにも落ち着かなくて彼の帰りが待ちきれなくなってしまった。千世はさっきから玄関先に立って家の前を行ったり来たりしている。
試験が終わるのが三時の予定だから、そろそろ帰って来ても良い時間だ。
弟の受験なのに兄である自分の方がそわそわしてしまう。泰志は本番に強いタイプだからあまり心配する必要もないことは知っているが、受験ともなれば彼の人生がかかっていると言っても過言ではないのでどうしても気になってしまう。
(早く……早く帰ってこないかな)
逸 る気持ちを抑えきれなくて、だんだん歩く速さが上がり廉佳の家の方まで来てしまった。
今朝の泰志の見送りには廉佳も来てくれたが、送り出した後で『昨日はご馳走さん』と言われた時は顔が茹で上がるかと思った。すぐに記憶から抹消するよう言っておいたのだが、それを遂行してくれたのかどうかは怪しい。自分の痴態をカメラ越しに見られるなんてもうごめんだ。
「っと、そんなこと考えてる場合じゃない」
そう。今は泰志のことが最優先だ。いっそのこと駅まで迎えに行こうかと思っていたら、遠くの曲がり角から千世が待ち望んでいた姿が見える。
紺色のブレザーを着た彼は千世を見つけるとすぐに走り出した。
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