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第185話

「千世にーぃ、ただいまー!」 「お帰り、泰志!」  千世も我慢ができなくなって駆け足になり、二人の影が(まじ)わったところで泰志にぎゅっと抱き締められる。 「身体冷えてる……ずっと待っててくれたの?」 「だって心配だったから」 「俺なら大丈夫だよ。しっかり実力出せたから、もう受かってる自信しかないね」  随分強気な発言が頼もしい。 「全部千世にぃのお陰。お弁当も、これも」  泰志がブレザーのポケットから取り出したのは、今朝千世が彼に渡したお守りだった。  実は先日の学校帰り、学業成就で有名な神社で買ってきたのだ。泰志には夢を叶えるために何としても合格してもらいたいから。これといって夢もやりたいこともない千世は、しっかりとした目標を持つ弟を密かに尊敬していた。 「これをずっと身に付けてたから千世にぃを近くに感じられて、筆記も面接もばっちりだったよ」 「そっか、ならまずは一安心だね」  千世の背中を抱く腕の力が強くなる。彼の努力が報われることを信じて、千世も笑顔でその背中に腕を回した。  その時だった。  隣の家からどたばたと騒がしい足音が聞こえて、抱擁(ほうよう)していた二人は身体を離す。  誰かが階段を駆け下りているのだろう。『誰か』といっても候補は一人しかいないのだが。 「廉にぃ、どうかしたのかな」 「さあ……」

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