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第186話

 彼の家からこんな音がするのは珍しい。廉佳は泰志と違って家の中を走り回るようなことをしないからだ。  そして、ものの数秒で玄関を突き破りそうな勢いの廉佳が飛び出してくる。 「千世! 泰志! 丁度良いところにいた、凄いことがあったんだ、聞いてくれ!」  すっかり平常心を失った廉佳が息を切らしながら言う。彼からあんなに冷静さを奪うなんて、よほどのことがあったのだろう。 「廉佳さんまずは落ち着いて。ゆっくりでいいから、何があったのか教えて?」 「そ、そうだな。取り乱すなんて俺の柄じゃない……」  何回か深呼吸をした廉佳は、今度こそ平静(へいせい)に語り出した。 「あの、あのな。こないだ二人にモデルやってもらって描いた漫画が……」 「うん。それが?」 「さっき編集部から連絡があって、俺の作品が最優秀賞に選ばれたって――」 「え……?」  最優秀賞。  あの漫画が、千世と泰志を参考にしたという、あの漫画が。  一番になった? 「すごぃ――すごいよ廉佳さん! 何て言うか、ほんとにすごいね!」  喜びも頂点に達すると言葉が出なくなってしまうようだ。

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