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第190話

 こんな取るに足りない会話でくすくすと笑い合えることが幸せだった。それは小さな小さな宝石のようだけど、何ともない日々の中に無数に散りばめられていて。ちょっとしたことで取り零してしまいそうな(きら)めきだ。  だが、それは多ければ多いほど切ない気持ちが目立ってくる。  こうして眼の前の幸福に心を弾ませていると、ふとした瞬間淋しいような、切ないような気持ちになることがある。多分、楽しいことが終わった時のことを考えてしまうのだ。今だってそうだ。この関係を、いつまで続けられるのだろうという思いが脳裏をよぎる。  これは油断したら儚く消えてしまいそうな、泡沫(うたかた)の幸せなのだ。 「千世? 暗い顔してどうした」 「何でもないよ。早く行こう、泰志に置いて行かれちゃう」  千世は自然な笑顔を装って廉佳を見上げる。(いだ)いていたのが漠然とした不安のような、はっきりとしないものだったから、彼を(あざむく)のは簡単だった。 「ねー二人ともー、早く早く!」 「うん、今行くよ! ――ほら行こう、廉佳さんっ」 「あ、ああ」  千世は彼の手を引いて泰志の元へと急ぐ。千世は今の幸せをめいっぱい堪能しようと、さっきまでの不安を振り切って遊ぶことに集中することにした。  三人でお喋りをしていたら、待ち時間はあっという間に過ぎていった。

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