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第194話
キャストから注意事項を一通り説明されて中に通されると、ひんやりとした空気に身体を包まれた。真っ暗な中に赤い照明がぼんやりと浮かび上がって、襖の向こうから今にも何かが飛び出してきそうな雰囲気だ。
細い通路は三人で進むには狭すぎるため千世と泰志が二人で並び、その後ろを廉佳が歩く形になる。
「千世にぃ、暗いから気を付けてね」
自然に手を握られ、その温かな感触に頬が緩む。こうなることも泰志の思惑通りなのかもしれないが、それでも構わなかった。
――オオォオォォォオオォォ!
「わああぁああー!!」
突然、前髪の長い顔面蒼白の女性が血だらけになって現れる。
入って早々の仕掛けに、千世は腹からの声で叫びながら泰志の腕にしがみついた。急に出てきて怖い顔で脅かしてくるから本当に心臓に悪い。
「千世のそんな大声聞くの久し振りだな。ガキの頃以来だ」
「う、うそ? 俺の前では全然大声出したり泣いたりしなかったのに」
「泰志、廉佳さんっ、今そんな話しなくていいよ!」
ここは思い出に浸る場所でなければ、のんびりと立ち話をしている場所でもない。千世は慌てて走り出して女性のお化けの前を通り抜けた。
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