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第201話

 一つのコップや箸などを二人で使うのは日常茶飯事なのに、改めてそう言われると意識せずにはいられない。  確かに家でやるのと外でやるのでは大違いだ。家族であるとともに愛人でもあることを否応なく突きつけられた。 「全く、泰志も隅に置けないな」 「だって千世にぃの弟兼愛人だもん。そのうち廉にぃから奪っちゃうかもよ」 「そんなことさせないよ。千世は俺の恋人だし、そもそも千世がずっと前から好きだったのも俺だ」  な? と同意を求められて千世は躊躇(ためら)いがちに頷いた。素直に肯定するのが恥ずかしかったのと、泰志の前で堂々とそれを認めるのが彼に悪い気がしたから。 (でも、泰志に悪いって思っちゃう事自体失礼なのかな)  昨日の『もやもや』が(よみが)える。  三人の関係を気にし出すといつもこの『もやもや』が産まれるのだ。  だが遊園地に来てまで暗い気持ちになるのはもったいない。千世はせめて『もやもや』を胸の奥底へ押し込もうとして二人に笑いかけた。 「ね、ねえ早く食べて次のアトラクション乗りに行こうよ。出来るだけたくさん回りたいんだ」 「千世にぃに賛成。せっかく遊園地まで来たんだから、楽しまなきゃね」  身体がくっついているせいで泰志が笑う振動が伝わってくる。それに身悶えると今度は廉佳からの振動が千世をくすぐった。 「なら次は千世一人でメリーゴーランドに乗るのはどうだ?」 「それ何の罰ゲーム……?」 「ははッ、冗談に決まってるだろ」  時に廉佳の言うことは冗談に聞こえないから彼の笑い声を聞いて安心した。十九歳にもなった男子が一人でメリーゴーランドなんて、どんな苦行よりも厳しい。  そんな話をしているうちに周りの視線も気にならなくなってきて、千世はいつの間にか三人での会話に花を咲かせることを全力で楽しんでいた。

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